離婚に伴う財産分与として、不動産を譲渡した場合には、分与者に譲渡所得税を課すのが課税当局の立場であり、判例もこれを是認します。
このことを知らずに財産分与の協議を行った場合、分与者は財産分与の協議について錯誤無効の主張ができるでしょうか。最高裁判所判例は、協議離婚に伴う財産分与として自己の特有財産である不動産を妻に譲渡した後、2億円あまりの譲渡所得税を課されることを知った夫から錯誤による分与契約の無効の主張がされた事案につき、次のように判示しました。
すなわち、この点に関する誤解は動機の錯誤にあたるが、本件については財産分与に伴って分与者に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的に表示していたとして、要素の錯誤があったと認め、夫の請求を棄却した原判決を破棄し、原審に差し戻しました。
財産分与の協議は、離婚と密接な関係をもつものではあるが、結果的には、財産の移転ないし債務の負担という財産法上の効果を生ずるものなので、民法第95条の錯誤無効の適用を認めてよいでしょう。
しかし、本判決の前提となった分与者に対する譲渡所得税の課税という課税当局の取り扱いは、財産分与の無償性や夫婦共同財産の清算的要素を軽視し、また、分与額を低額に抑えることにつながるなど、学説の批判は強いようです。
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