離婚・婚姻の専門解説離婚の慰謝料
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2020年7月19日
離婚の慰謝料
婚姻費用の清算
夫婦間の債権債務など、離婚時に夫婦間で清算の終了していない財産関係が存する場合があります。これらは、夫婦の共同財産の清算ではないから、離婚時に清算する必要は必ずしもありません。しかし、夫婦間の財産上の紛争は、なるべく離婚と同時に解決を図る…
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2020年7月18日
離婚の慰謝料
財産分与と慰謝料の判例
判例は、財産分与に損害賠償の要素を含めて給付がされた場合において、離婚慰謝料の支払いを請求するときには、その額を定めるにつき、損害賠償の要素を含めて財産分与がされた趣旨を斟酌しなければならないとしました。 そして、この財産分与によっ…
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2020年7月17日
離婚の慰謝料
財産分与と別途の慰謝料請求
判例は、財産分与額を定めるには、一切の事情を考慮することを要するので、慰謝料支払い義務の発生たる事情も当然に考慮されるべきであると判示しています。この判決は、事案に即して財産分与請求が可能な立場にあることは、離婚慰謝料の請求を妨げるもので…
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2020年7月15日
離婚の慰謝料
財産分与、慰謝料請求権の行使
財産分与と慰謝料の関係について包括説と限定説の対立がありますが、両説は手続きとの関連で、さらに細かく対立します。包括説のうち、包括不可文説は、慰謝料請求権の実体は財産分与請求権に吸収されて後者だけが存在し、手続き的にも不可分一体であるとし…
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2020年7月11日
離婚の慰謝料
財産分与と慰謝料
離婚慰謝料につき、判例は、夫婦の一方が婚姻関係の破綻原因となった他方の有責行為により、離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことについて、損害賠償を請求するものであるとしています。身体・自由・名誉などを、侵害する個別の有責行為にもとづく慰謝…
財産消滅の可能性
財産分与の結論が出るには時間がかかります。その間に、夫婦の一方が勝手に財産を処分してしまうと、決定が下ったときには、分与すべき財産がなくなっているという事態が起こりかねません。また、一方が求めている財産を、もう一方がわざと売却して困らせる、といったこともありえます。
それを防ぐ仕組みが保全処分というものです。保全処分とは、「本来の状態を、そのままに保ちなさい」と裁判所が命令することです。
財産分与では、財産を仮差押・仮処分をし、相手が勝手にいじられないようにします。
どのような財産を保全したいかは、申立てる側が指定しますが、相手が生活できなくなる場合は、財産の処分はできません。次のような場合は、保全処分を行うのが妥当でしょう。
- 相手が財産の名義を勝手に移そうとしている場合
- 相手が預貯金をおろして隠そうとしている場合
- 分与される財産を勝手に売ろうとしている場合
申立てにより財産を保全する
財産保全の方法は、以下のとおりです。
- 調停がはじまる前に調停員会に申立てる
離婚調停あるいは財産分与請求調停を申立てた時点で、調停委員会の権限で保全の仮措置が行えます。しかし、強制執行力はなく、実際にはほとんど行われていない方法です。 - 審判前の保全処分を申立てる
家庭裁判所に財産分与などを請求する審判を申立てたときに、同時に申立てます。この審判では、保全処分の緊急性や必要性などが審理されます。申立てが認められると、家庭裁判所が仮差押・仮処分などを命じます。 - 調停とは別に民事保全を申立てる(いつでも可能)
相手が財産を隠している証拠があれば、いつでも地方裁判所に申立てることができます。この手続きを行うときは保証金を支払うことになります。高額な財産を保全してもらうとそれなりの金額がかかりますから、注意が必要です。このお金は財産分与の処分が確定すれば戻ってきます。
財産を開示させる制度
強制執行により、相手の財産を差し押さえるにあたっては、対象となる財産の内容を特定する必要があります。しかし、相手の財産を具体的に知ることは非常に困難です。裁判所で命じられても、現実には差し押さえできないケースも多々ありました。
こういった問題を解消するために、2020年4月から改正民事執行法が施行され、差し押さえを容易にする制度が整えられました。内容は、①財産開示手続きの改正と、②情報取得手続きの新設、の2つです。
財産開示手続きは、相手を裁判所に呼び出し、保有している財産を開示させる制度です。この制度自体は、以前からありましたが、裁判所からの呼び出しに応じなかった場合や、陳述拒否、虚偽の陳述をした場合の罰則が30万円以下の過料と安く、あまり活用されていないことが課題となっていました。
今回の改正により、罰則が強化され、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が課される(刑事罰)こととなりました。
また、申立てができる人の範囲が拡大されて、調停調書や判決書だけでなく、公正証書をもっている人でも可能となりました。さらに、相手の住所がわからない場合には、公示送達が認められました。
預貯金や給与の情報を知る方法
情報取得手続きは、新設された制度であり、財産情報をもっている第三者を通じて、相手の財産情報を取得するものです。
預貯金や株式などの財産を差し押さえたい場合は、調べてほしい金融機関を特定することで、裁判所から金融機関に照会が行われ、口座番号や金額などの情報提供を命じることができます。
相手の給与を差し押さえたい場合は、財産開示手続きを行なったうえで、裁判所を通じて市区町村や日本年金機構、厚生年金の実施機関に対して勤務先などの情報の提供を命じることができます。
この給与情報の取得を申立てることができる人は、限られています。養育費や婚姻費用などの請求権をもつ人と、生命・身体への侵害を理由とする損害賠償請求権をもつ人です。生命・身体への侵害を理由とする損害賠償には、慰謝料も含まれます。また、損害にはPTSDになったなどの精神的損害も含まれます。
離婚後の変更
離婚が成立してしばらく経つと、金銭関係の手続きの漏れやミスが気になってくるものです。「年金分割をし忘れた」「預貯金の一部が財産分与の対象に入っていなかった」といったことです。
改めて請求したい、あるいはいったん取り決めた金額を変更したいという場合、離婚のあとでも、調停や裁判を申し立てることができます。手続きが離婚調停と同じで、行われる内容にも変わりはありません。
請求できる期間には制限があります。慰謝料は3年、財産分与・年金分割は2年が期限です。
離婚成立日から数えてこの期限が過ぎると、相手に新たな支払いを求めるとか、取り決めの内容の変更を求める、といったことができなくなります。
また、離婚協議書などに清算条項が記載されていた場合、原則として、離婚後の請求はできません。清算条項とは、「当事者間には、協議書・公正証書・調停調書に定めることのほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する」といった条項のことです。
債権の消滅時効
注意しなければいけないのは、いったん協議・調停判決で決まった支払う義務、支払ってもらえる権利(債権)もまた、ある期限で消えるという点です。
支払いがなされないまま放っておくと、離婚に関する場合、債権は5年で消滅します(調停・判決で決まった場合は10年)。これを消滅時効といいます。
時効後にも支払いの要求はできますが、相手の支払い義務は消え、支払わなくても罰せられなくなります。
これを防ぐには、離婚後すぐに金銭関係の漏れやミスがないかを確認し、あれば裁判所に申立て、自分に債権があることをはっきりさせなければなりません。そのうえで、相手に定期的に支払いを要求し、消滅時効に持ち込まれないようにすることです。
過去の婚姻費用の請求
過去の婚姻費用をさかのぼって請求する権利はあります。しかし、その費用がなくてもこれまで生活できたという事実があるため認められるのが難しいといえます。
また、どの時点までさかのぼって請求できるのかについても、明確に定められているわけではないため、婚姻費用は離婚前に請求しましょう。
離婚財産分与・慰謝料の支払い方法
一括払いと分割払い
離婚による財産分与や慰謝料の金額について話し合いがまとまったら、次にそれらの支払い方法についても取り決める必要があります。
現金の支払い方法については、大きく分けて一括で支払う方法と分割で支払う方法があります。受け取る側の立場に立つと、一括払いが望ましいといえます。一括で受け取ることができれば、あとになって不払いなどのトラブルが起こりえないからです。
しかし、支払いの総額が高額な場合は、支払う側の負担も大きくなるため、分割にするのもやむをえません。このとき、支払いを受ける側としては、確実にお金を受け取るために、できるだけ支払い期間を短く、回数を少なくするよう交渉します。また、現金をできるだけ高く設定しておく方法もあります。
文書に記載して保存
離婚後の生活の援助(扶養的財産分与)や養育費など、定期的に支払うお金については支払う月日、金額、期間、方法などを話し合って決めます。
たとえば、「子どもが満20歳になる〇年〇月まで、毎月末に金5万円を指定する口座に振り込む」などと具体的に決めることが大切です。
取り決めた内容については、必ず文書に残しておきましょう。強制執行認諾約款付公正証書にしておくと強制力があるので安心です。調停や離婚裁判で支払うことが決められた場合は、調停調書や判決にもとづいた強制執行ができます。
財産分与・慰謝料の金銭支払いの場合
財産分与も慰謝料も、金銭で支払わられる場合は、支払う側にも受け取る側にも原則として税金は課せられません。しかし、いくつかのケースでは、税金が課せられるケースがあります。
第一に、税金逃れのための離婚とみなされた場合です。贈与税や相続税を逃れる目的で行われた偽装離婚だとわかれば、離婚時に動いた財産すべてに贈与税がかかります。
第二に、あまりにも高額の金銭が支払われる場合です。金額は、夫婦の共有財産の額や離婚に至る経緯などによっっても変わるため、絶対的な上限が定められているわけではありません。しかし、社会通念上、高額すぎると判断された場合は、贈与税が課せられることがあります。
第三に、慰謝料や財産分与を金銭の代わりに不動産で支払った場合があります。不動産を譲る側には、不動産の譲渡所得税が課税されます。法律では、時価で譲渡したとみなされ、その額に税金が課せられます。
受け取る側には、不動産取得税が課税されることがあります。このほか、不動産の名義変更の登録免許税や固定資産税が(市街化区域内なら都市計画税も)毎年必要となります。
登録免許税は法務局へ財産分与の名義変更をする際に課される税金です。不動産評価額の1000分の20と定められています。
固定資産税は毎年1月1日時点の土地、家屋などの資産の所有者に対して、その資産の価格をもとに課税される税金です。固定資産課税台帳に登録されている人が納税します。
不動産譲渡所得税・不動産取得税は、控除がある場合もあります。それを税理士などに相談して試算するのも一つの方法です。しかし、控除などを活用したとしても、多額の納税になる可能性があります。
納税を避けるために、慰謝料や財産分与は預貯金などの現金で行うのが無難です。
居住用不動産に関する税の控除
次のような控除が考えられます。
- 3000万円の特別控除
受け渡す不動産の譲渡所得が、3000万円以下の場合には課税されません。3000万円を超える額に課税されます。 - 居住用不動産の軽減税率
居住用として10年以上所有している不動産については、譲渡所得税率が軽減されます。 - 贈与税の配偶者控除
婚姻期間が20年以上の夫婦が居住用不動産を贈与した場合、2110万円まで非課税となります。 - 固定資産税の特例
固定資産税が課税される年の4月1日時点で、住宅として利用されている土地については、税金が軽減されます。
扶養目的での家屋の受け取り
生活費を軽減する目的で家を受け取ったとしても、固定資産税の課税対象となります。固定資産税の税率は、全国一律1.4%です。固定資産評価額が1000万円のマンションなら、年額14万円かかります(ただし住宅用地の軽減措置もあります)。家賃に比べれば低額ですが、準備しておくとよいでしょう。
年金の種類
年金には、次のような種類があります。
国民年金は、日本国内に住む20歳以上60歳未満の人が対象です。自営業者、フリーターなど、すべての人が国に納めます。
厚生年金は、会社員・公務員が国に納めます。
企業年金は、各企業が独自に運営し社員に対して年金を支給する仕組みです。
年金分割の対象
年金分割の対象となるのは、会社員・公務員が加入する厚生年金のみです。夫婦が協力して得た収入(給料)から納めるのが厚生年金の保険料だからです。
国民年金も夫婦の収入から納めますが、将来的に同額の老齢年金が給付されるので、分割に意味はありません。
厚生年金では、給料の額に応じて納める保険料の額が変わります。保険料を多く納めた方が保険金の給付も多くなりますから、夫と妻で将来の受給額に差が生まれます。夫婦で老後を迎えたなら、保険金をいっしょに使えるので受給額の差は問題になりません。
しかし、離婚すると生活が別々になるので、この受給額の差が問題となるのです。
年金分割は、すでに支払った分の保険料を分割したうえで将来受け取れる年金を算出します。夫婦の保険料がならされ、将来の受給額に差がなくなるわけです。
年金分割の対象者
年金分割の対象となる人は、次のような人です。
サラリーマンと配偶者、公務員と配偶者です。
対象とならない人は、次のような人です。
経営者と配偶者、自営業者と配偶者です。
加入者の種類による年金
第一号被保険者は、国民年金を個人で納付します。
自営業者、フリーターなどです。
第二号被保険者は、国民年金と厚生年金を給料天引きでまとめて納付します。
サラリーマン、公務員が対象です。
第三号被保険者は、第二号被保険者の納付に相乗りして、自分では納付しません。
専業主婦が対象です。
年金分割の合意の有無
合算した給料の取り分は、夫婦の合意をえて決められます。これを合意分割制度といいます。
夫婦のどちらかが第三号被保険者である場合は、三号分割制度が適用され、2008年4月1日(この制度の施行日)以降に納めた保険料は、合意不要で分割されます。按分割合も二分の1に決まっています。いわば、専業主婦への特別処置です。
年金分割受領の手続き
年金事務所での手続き
年金分割を行うには、まず、夫婦でお互いの取り分(按分割合)を決め、合意する必要があります。按分割合は夫婦が自由に決められますが、家庭裁判所では、特別な事情がない限りは二分の1ずつが原則であるとしています。
決まった内容を合意書にしたら、日本年金機構が運営する年金事務所で年金分割請求手続きを行います。
手続きは、離婚の成立後でなければできず、原則離婚後2年を過ぎたら請求できないので、注意が必要です。
事実婚の場合(内縁関係)は、事実婚を解消し、事実婚だった人が第三号被保険者でなくなったときから起算して、2年を過ぎると請求できません。
後日、年金分割が決定したという通知が年金機構から送られてくるので、書面を確認しましょう。
離婚調停・裁判の場合
夫婦だけで合意できない場合は、離婚調停・裁判で決めます。すでに離婚している場合も、2年以内ならば年金分割の割合を決める調停を起こすことができます。
申立てには「年金分割のための情報通知書」が必要です。この書類は、協議離婚の話し合いでも役立つので離婚を考えた時点で取り寄せておくとよいでしょう。
年金分割のための情報通知書は、氏名・生年月日・基礎年金番号などのほか、年金分割の対象期間における標準報酬総額や按分割合の範囲などが記載された書類です。年金事務所で発行できます。
裁判所で按分割合の決定が下っても、実際に年金を分割してもらうには、年金事務所で請求手続きをする必要があります。
年金手続きは、協議離婚の場合と同じですが、合意書の代わりに家庭裁判所が作成した調停調書や判決書を添えます。夫婦のどちらか一方だけで請求の手続きができます。
金額のわからない資産
財産分与の対象となるものは、現金や預貯金など、単純に分けられるものだけではありません。不動産や自動車などそのままでは分けられないものは、金銭的な価値(評価額)を出したうえで、分け方を決めていきます。
評価額は時期によって変動するため、財産分与をする時点での評価額で計算します。いくらで売れるかが重要であり、買ったときの値段は評価額としては参考になりません。
評価額を出すときには、個人で調べるよりも専門家に鑑定または査定を依頼する方が将来のトラブルを避けられるでしょう。不動産は不動産業者や不動産鑑定士に、自動車は中古車販売会社にそれぞれ査定を依頼すれば、市場価格を知ることができます。
バランスをとって分ける
評価額がわかったら、それぞれの物品・物件について、どう処理するかを決めていきます。
1.売却して現金化し、売却にかかった経費を差し引いて分ける
2.どちらかが所有し、相手方にはその評価額分の現金を渡す(分割払いも可)
しかし、なかには一方の所有にしたり、売ったりするのを避けたい資産もあります。たとえば、夫名義の家に妻子が離婚後も住みたい、共同の仕事場を離婚後も使いたいなどの場合は、以下の分け方を検討します。
- どちらかが所有したうえで、名義を持たない方が使い続ける権利を持ち、使用料を支払っていく
- 共有名義にし、分与した割合に応じて持ち方を決める
これらの方法を選んだ場合、将来売却したいと思ってもお互いの合意が必要となり、売却が困難になる可能性もあるので、安易に選択しないようにしましょう。
住宅ローンや借金
借金を負担する人を決める
共有財産には、プラスの財産だけではなく住宅ローンや借金など、マイナスの財産も含まれます。たとえば夫婦でマンションを購入して共有名義にしていた場合、離婚したからといって、所有名義や債務が自動的に取り消されるわけではありません。また、夫婦のいずれか一方の所有名義になっていたとしても、離婚時にはローンの残額が夫婦の共有財産となります。
離婚時には、こうしたマイナスの財産を二人に振り分けていくことになります。そのときには、一件の借金を二つに分けることはありません。借金は、債権者(貸主)が借りる側の資産・収入・職業などを審査して貸しているので、借りた側が勝手に二つに分けることはできないからです。このため、住宅ローンなどの大きな債務をどう扱うかが問題となります。
評価額とローンの差額の計算
住居など売却できるローンの場合、まずは売却したときの評価額とローン残高の差額を出します。売却したときの評価額が上回る(差額がプラス)場合は、次のような方法で分けることになります。
たとえば評価額が2000万円の自宅不動産があり、ローンが1000万円残っている場合、2000万円から1000万円を差し引いた1000万円を二人で分け合うことになります。二分の1ずつ分けるときは、500万円ずつになるということです。
ローン残高が上回る(差額がマイナス)場合、離婚する前に物件を売却し、マイナス分を他の共有資産で埋めてローンを完済する方法が考えられます。
共有財産が少なくて埋め合わせができない場合は、売却せずに現在の名義人が所有し続け、ローンを単独で支払う方法があります。また、不動産の名義人のみ変更し、ローンの名義人がローンを払い続けるケースもあります。たとえば、妻が不動産の名義人となり、夫が離婚後もローンを支払うというかたちです。
へそくりや退職金について
へそくりも立派な共有財産
家計のなかから節約してつくった「へそくり」を夫や妻に内緒で貯めるというのは決して珍しいことではないでしょう。こうしたへそくりは、自分の努力でつくったのだから自分のものになると考える人もいます。しかし、実際には婚姻中に夫婦が協力して得た共有財産とされ、当然、財産分与の対象となります。ただし、現実の離婚協議や離婚調停・裁判で「へそくり」の存在を正確に申告しているケースは多くありません。相手がへそくりを確実に抱えている証拠がない限り、財産分与の請求は難しいといえます。
離婚後二年以内に相手にへそくりがあったことを発見した場合は、そのへそくりについての財産分与の請求をすることができます。
また、夫がギャンブルなどで浪費していて、妻が家計を切り詰めてへそくりをしていたようなケースでは、夫に非があるため妻から夫に対し半分を渡すように、とまでは命じられない可能性が高いといえます。
将来的な退職金の支給
退職金は給与の後払い的な性質があると考えられています。そのため、退職金も婚姻期間に対応する部分は財産分与の対象となります。
すでに退職金が支払われている場合は、婚姻期間に対応する部分を財産分与の割合にしたがって分けることになります。ただし、退職金が相当前に支給されて生活費などに費やしていて、すでになくなっている場合には財産分与の対象とはならない可能性が高くなります。
では、まだ退職していなくて将来的に退職金を受け取る場合はどうなるのでしょうか。この場合、定年退職が目前で退職金の支給がほぼ確実に見込まれるようなときは、財産分与の対象に含むのが一般的です。支給の見込みは会社の就業規則や支払い実績をもとに確認します。
財産分与についての話し合いを行うときに、請求時期についても明確にしておく必要があります。公務員の場合、調停や裁判などでは退職金を受け取る可能性が比較的高いと判断されます。
定年退職まで期間がある場合でも、原則として分与対象とされますが、会社の経営状態や退職理由によって退職金が支給されるかどうか不透明なときは、財産分与の対象とされないことがあります。
共有財産のリストアップ
財産分与の対象となるのは、結婚後に夫婦で築き上げた共有財産です。具体的には現金、預貯金、不動産、私的年金、自動車、積立型保険、株式などです。将来受け取る予定の退職金も財産分与の対象となります。
住宅ローンや借金など、夫婦の共同生活を営むうえで生じたマイナスの財産も対象となります。
一方、例外的に共有財産から除かれ、各自の財産とされるものがあります。これを「特有財産」といい、財産分与から外され、個人のものにすることができます。たとえば独身時代から持っていた預貯金は、配偶者の協力によって得たわけではないので、特有財産になります。結婚前にした株式投資が今になって成功したなど、特有財産を資金とした投資の利益なども特有財産として認められます。日常的に使用している衣類なども財産分与の対象外です。
民法762条
1.夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2.夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
問題となるのは、独身時代の預貯金口座を結婚後の生活費の管理に使っている場合です。結婚時に新たに口座を開かなければならないという決まりはないので、ごく一般的な管理方法といえます。しかし、離婚を考えているなら早めに口座を区別してく必要があります。
金融機関では、結婚直前の年月日を指定して残高証明書の発行を依頼することができます。ただし、5〜10年を過ぎている場合、保存期間経過により破棄されていることがほとんどです。保存期間は金融機関や資産の種類によっても異なるので、早めに確認した方がよいでしょう。
相続した財産も財産分与の対象外
親や親族から相続した財産も特有財産であり、財産分与の対象外です。相続する権利は、相続する本人のものだからです。相続したのが借金だった場合も特有財産なので、離婚後に相手に債務の義務を負わせることはできません。
相続分は、相続した名義の口座を新たにつくり、生活費などとは分けておく必要があります。また、贈与を受けているなら公正証書をつくっておく方がよいでしょう。夫婦二人に対する贈与とみなされると財産分与の対象になるからです。
日常家事連帯債務
配偶者のギャンブルの借金は、本人が負担することになります。
しかし、日常の生活において家事に関する債務は連帯責任を負います(日常家事連帯債務)。したがって、夫婦は離婚しても、お互いに第三者に対して責任を負わなければなりません。この点に関して、民法761条は次のように定めています。
民法761条
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
男女の区別があるものの扱い
時計、バッグ、アクセサリーなど、男物と女物の区別がある服飾品、分け合っても夫婦の片方には使いようがありません。つまり、分けても価値がゼロになるだけなので、財産分与の対象にはされません。ただし、ブランド品など高額なもので売れば資産になるものは、分与の対象となる余地もあります。
特有財産
特有財産は、離婚の際の財産分与の対象とはなりません。どのようなものが特有財産に該当するかについて検討しましょう。
- 独身時代に手に入れた財産
- 現金・預貯金
- 借金
- 株式・債券
- 不動産
- 積立型保険
- 自動車
- 家電・家財道具
- 相続した財産(生前贈与を受けた財産を含む)
- 現金・預貯金
- 株式・債券
- 不動産
- 骨董品・美術品
- 自動車など高額品
- 借金
- 個人で築いた財産
- 独身時代に行った投資の配当金
- 独身時代の財産で行った投資の配当金
- 趣味やギャンブルなどでつくった借金
- 自分しか使わない家財
- 男物・女物の区別がある服飾品
- 携帯電話・スマートフォン
- 日常的に消費されてしまうもの(洋服や靴など)
結婚後の財産は夫婦の共有
離婚する際には、夫婦のあいだの財産を分けることになります。これを、財産分与といいます。分ける対象となるのは、夫婦の共有財産です。
結婚生活をはじめた日以降に夫婦が協力して得た財産は、どれも共有財産とみなされます。どちらに名義があるか、どちらが経済的に貢献したかは関係ありません。離婚の原因をつくった有責配偶者であっても財産分与を請求することはできます。
収入を得ていたのが夫のみで、妻が専業主婦の場合も、財産は夫婦二人のものです。妻は家事・育児を受け持つことで夫の稼ぎに協力してきたからです。
当然、離婚するときには、妻にも財産を手にする権利があるので、共有財産がどこにどのくらいあるかを、明確にしておくことが大切です。
財産分与は金銭問題を清算
協議離婚の場合、財産をどう分けるかは、夫婦の自由です。
一方、調停や裁判では、「その財産を築くのに、お互いがどのくらい貢献したのか」という目安で分けられます。貢献度は、夫婦とも原則として二分の1というのが現在の主流です。これを「清算的財産分与」といいます。
離婚後、夫婦の一方に経済的な不安がある場合、もう一方が援助するかたちの財産分与を「扶養的財産分与」といいます。この場合、たとえば「離婚後3年間、婚姻費用相当額の支払いを続ける」といった決定が下されます。
しかし、「扶養的財産分与」は、「清算的財産分与が多くない」「病気を抱えている妻が簡単に就職できない」「夫の収入が多い」「離婚原因が夫の方にある」などの、複数の事情が考慮されてはじめて認められるものであり、実際にはほとんど認められません。
また、未払いの婚姻費用がある場合も、財産分与で調整されます。
浮気した妻が財産分与請求
浮気が原因で離婚しても、妻にも二分の1の財産分与を請求する権利があります。ただし、財産分与と慰謝料とは別の問題として考えられます。
浮気の件で夫が慰謝料を請求すれば、その支払いが別途命じられます。結果的に慰謝料と財産分与が相殺されることもありますが、あくまでも慰謝料と財産分与は別ということです。
離婚の財産分与の割合決定
財産のリストアップ
財産分与を行うときは、まず結婚後につくった夫婦の共有財産をすべてリストアップします。このとき、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産も把握します。次に、リストアップした財産をもとに、財産の総額を割り出します。
たとえば、収入を調べるとき、サラリーマンの場合は源泉徴収票、自営業の場合は確定申告時の資料をもとに計算します。
預貯金は、すべての預金通帳の額を足し合わせます。不動産は、役所の発行する評価証明額によるとか、不動産業者の査定の方法があります。住宅ローンは、金融機関から送られてくる返済予定表で残高を把握しておきます。
財産の総額がわかったら、プラスの財産からマイナスの財産を差し引きます。これが財産分与の対象となる財産ということです。
二分の1ずつ分けるのが原則
財産分与の割合は夫婦の話し合いで自由に決めることができます。ただし、原則として二分の1ずつ分けるのが基準となっています。
話し合いでまとまらないときは、家庭裁判所に調停の申立てを行います。調停が不成立になった場合、離婚裁判で解決を目指します。調停や裁判では、収入のない専業主婦の場合も、共有財産の二分の1を受け取ることが認められるというのが、現在の家庭裁判所の考えです。
分与の割合が決まったら、財産の分け方を決めます。すべての財産が現金ではなく、なかには土地のように分けにくいものもあります。これは売却して現金を分けるのか、代わりに別の財産を充てるのかなどを決めることになります。
夫が多額の借金を作っていた
配偶者がギャンブルなどで多額の借金を抱えてしまったとき、それも夫婦の共有財産ということになると、財産分与の対象となる財産が大きく目減りしてしまいます。こうした借金は、原則として夫婦の共有財産とはならず、借金をつくった本人が負担することになります。
離婚の慰謝料の決定
慰謝料の金額には決まりがありません。協議離婚では、夫婦の話し合い次第で自由に決めることができます。つまり、「その金額でお互いの気がすめばそれでいい」とされています。
調停や裁判でも自由な金額を請求できます。ですが、現実として高額の決定はほぼ出ません。なぜなら、慰謝料の額の判断材料として重視されるのは、原告がどれだけ心を傷つけられたかではなく、被告にどれだけの非があるかについてだからです。
相手の非を証明しなければならない(立証責任がある)のは、慰謝料を請求する側です。証明が不十分であると慰謝料を減額されるか、場合によっては請求そのものが棄却されます。
また、うまく証明できたとしても自分にも何らかの非があるとされれば、やはり慰謝料は減額されてしまいます。これを過失相殺といいます。
離婚は多くの場合、双方に何らかの非があり、相手だけに非があると証明することは簡単ではありません。たとえば、DVがあったときには相手の非が明白でしょうが、離婚理由の多くは一方だけに責任を押し付けることができない場合が多々あります。
公正証書の作成
協議離婚の話し合いでは、慰謝料の金額だけでなく、支払い方法や支払い期限についても決めます。話し合いで取り決めた内容については、文書に残しておきましょう。
公証役場で強制執行認諾の約款がついた公正証書を作成しておけば、支払いが滞ったときに強制執行の手続きを取ることができます。
慰謝料の目安額
司法統計をみると、慰謝料を200ないし300万円以下とする離婚がもっとも多くなっています。テレビなどで芸能人の高額慰謝料の話題も出ますが、それはその人の財産が多いためです。慰謝料には、あまり大きな期待を抱かない方がよいでしょう。
慰謝料の原因となる理由と目安額は、概ね次のようなものです。
理由 | 目安額 |
---|---|
浮気 | 100〜500万円 |
DV | 50〜500万円 |
悪意の遺棄 | 50〜300万円 |
性行為の拒否 | 100〜300万円 |
不倫相手への慰謝料請求
離婚の慰謝料は「相手が離婚理由となる行為をしたこと」「そのせいで夫婦の関係が破綻したこと」への精神苦痛に対して支払われます。
この請求の対象は、離婚原因を作った人だけでなく、その人に離婚理由を作らせた人にも及びます。たとえば、配偶者の不倫相手に対しても、慰謝料の請求が可能となります。過去の裁判でもそのような相手への慰謝料請求を認めています。
ただし、その不倫相手に「自分がやっていることは離婚理由になりうる」という認識がなければいけません。要は、「わかっていてやった」ということです。
不倫相手の場合は、既婚者と知ったうえで性的関係を持つことが「わかっていてやった」にあたります。既婚者と知らなかったなら、慰謝料請求の対象となりません。つまり、浮気相手に慰謝料を求めるときは浮気相手が既婚者と知っていたかどうかまで証明する必要があります。
不倫は精神的苦痛をもたらす行為ですから、離婚する・しないにかかわらず慰謝料を請求できます。しかし、一般的には、離婚した方が精神的苦痛が大きいとみなされるため、高額の慰謝料は見込めないでしょう。なお、浮気相手にある程度の資産がなければ、確実に支払いを確保することはむずかしいでしょう。
配偶者親族への慰謝料請求
不倫相手以外にも離婚原因を作った第三者として考えられるのは配偶者の親族です。嫁・姑の問題など、配偶者の親族との対立が夫婦関係の破綻を招いたとして、配偶者の親族に対して慰謝料の請求を訴えることもあります。
しかし、現実に慰謝料の請求が認められることは非常に稀です。単に性格が合わない、いつもケンカしているという理由だけではむずかしく、よほどの理由がないと認められません。配偶者の親族の暴力など明確な不法行為がある場合は、その事実を証明する必要があります。
慰謝料とは
慰謝料とは、相手がした行為によって精神的苦痛を受けた場合に「感情を慰める」ために支払ってもらえるものです。損害賠償の一種といえるものです。
損害賠償は、身体や財産に損害を受けたり、将来の利益を失ったりした場合に、金銭で埋め合わせをすることです。慰謝料は、そのうち精神的苦痛に対して支払うものです。
離婚の際に必ず支払われると誤解しているひともいますが、どんな場合にでも請求できるものではありません。浮気や暴力などの不法行為に対しては請求できますが、単に性格が合わないといった理由では請求できません。「夫から妻に支払われる」というのも誤解です。離婚原因を作ったのが妻であれば、妻から夫に支払うことも当然あります。
離婚の慰謝料には以下の2つの要素がありますが、裁判ではこの2つを明確に区別せずに、扱うことが多いようです。
- 離婚理由となる行為を、相手がしたことによる精神的苦痛(離婚原因慰謝料)
- 夫婦関係が1の行為によって破綻することになった精神的苦痛(離婚自体慰謝料)
慰謝料請求を放棄しない
離婚を話し合っているとき、とにかく離婚したいという一心から「離婚してくれるなら慰謝料なんかいらない」と相手に告げてしまうことはよくあります。
離婚前に「慰謝料はいらない」という文書を作ってしまうと、相手がそれをタテに、慰謝料請求を認めようとしないこともあります。相手が一筆を求めてきたとしても、不用意にサインすることは絶対に避けるようにしましょう。
一時の感情で、のちの生活に大切なお金をないがしろにするのは、後悔のもとになります。つらい思いをした分、慰謝料を請求するのは当然の権利ですから、放棄してはいけません。
協議離婚後にも請求可能
慰謝料は、離婚の調停や裁判のなかで請求できます。夫婦の話し合いで合意できなかった場合は、家庭裁判所に離婚調停を申立て、調停のなかで話し合いを進めていきます。
調停で慰謝料の支払いが決まると取り決めが守られなかった場合に、強制執行の手続きをとることはできます。調停が不成立で終わった場合は、裁判を起こして請求することになります。
また、協議離婚をした場合も、放棄する意思を文書で示していなければ、あとから慰謝料について家庭裁判所に調停を申立てるか、慰謝料請求の裁判を起こすことができます。
離婚の原因と慰謝料の請求
慰謝料を請求できる離婚原因
- 浮気(不倫行為)
この場合、配偶者と不倫関係をもった相手方にも請求できる可能性が高いです。 - 悪意の遺棄(同居義務違反)
家を出て、一人で暮らすなど、家族の面倒をみないことなどです。 - 暴力
- 生活費を渡さない
最低限の生活を営むための費用を渡さない場合も該当します。 - 性行為の拒否
- ギャンブルによる浪費
- アルコール依存
慰謝料を請求できない離婚原因
- 性格の不一致
- 重い精神病
- 原因が双方にある
- 相手親族との不仲
- 相手に離婚の原因がない
- 宗教上の対立
- すでに夫婦関係が破綻している
慰謝料一括受領のおすすめ
慰謝料はなるべく分割払いにしないで、一括で受領してください。
多くの離婚において、相手の「支払おう」という気持ちは離婚後はどんどん失われていく傾向が強いです。確実に受け取りたいなら、一括払いを指定した方がよいでしょう。やむなく分割払いにせざるをえないなら、初回の支払い額をできるだけ高く設定することが大切です。
婚姻費用の請求は離婚調停とは別
婚姻費用の分担について、話し合いがまとまらなかったり、相手が話し合いに応じなかったりした場合は、家庭裁判所に「婚姻費用の分担請求調停」を申立てます。
まだ離婚調停をする・しないを決めていない段階でも婚姻費用の支払いについてだけでも、請求することができます。離婚調停を起こすことが決まっている場合は、同時に申立てることもできます。
生活費が滞っていて、婚姻費用がないとすぐにでも生活が成り立たないという場合は、調停の申立てと同時に、上申書(裁判所に依頼や報告事項を伝えるための書類)を提出しましょう。調停委員会が緊急性を認めれば、支払いの勧告または命令が下されます。
これは調停前の処分といい、強制力はありません。
しかし、従わなければ10万円以下の金銭罰が課せられるので、一定の効果があります。
収入状況を添えての申立て
婚姻費用調停は、離婚調停と同じように、原則として相手の住所地を受け持つ家庭裁判所に申立てます。ただし、夫婦が合意すれば、別の家庭裁判所でも構いません。
申立書のほか、自分の収入状況がわかる書類として源泉徴収票、給与明細といった書類が必要です。これは相手方にも写しが渡ります。
書類のなかに知られたくない情報がある場合、たとえば「現住所を知られたくないのに源泉徴収票に書かれている」場合は、提出前にその部分を黒く塗りつぶします。もしくは、「非開示の希望に関する申出書」に、その書類を貼り付けて提出します。ただし、必ず希望が通るわけではないので注意が必要です。
婚姻費用の額の変更
婚姻費用分担請求の調停では、裁判官が「婚姻費用の算定表」をもとに夫婦それぞれの資産と収入、支出の状況、子どもがいる場合はその年齢を考慮しながら分担額を決定します。
一度分担額が決まったあとで「収入が減った」「子どもが進学した」など、生活の状況が変わった場合は、額の変更を求める調停を申立てることもできます。
また、婚姻費用分担請求の調停が不成立で終わると、自動的に裁判官による審判に移行します。
審判とは、家庭裁判所で取り扱う事件について、当事者の合意では解決できない場合に裁判官が判断を下すものです。提出資料や家裁調査官の調査結果などにもとづいて判断されます。
審判では、裁判官がこれまでの調停でわかった事情を考慮しながら決定を下します。その決定に不服なら二週間以内に申立てれば審判は確定せず、高等裁判所で改めて判断し直されます。
審判による判断を待っていれば、生活費の余裕がない場合は「婚姻費用を仮払いの仮処分」もあわせて申立てます。ここで緊急性が認められると審判前の保全処分といい、婚姻費用として仮に一定額を支払うように、という命令が出ます。
婚姻費用分担請求調停に必要なもの
- 申立書
裁判所のホームページから書式をダウンロードできます。写し1通も提出します。 - 夫婦の戸籍謄本
役所で直接入手するほか、本籍地の役所に郵送で取り寄せることもできます。 - 申立人の収入状況がわかる書類
源泉徴収票、給与明細、確定申告書の写しなど、収入を証明するものです。 - 収入印紙、郵便切手
収入印紙代は1,200円分、連絡用の郵便切手代は家庭裁判所に確認します。
なお、申立書の記入のポイントとして、次のような点に気をつけてください。
- 相手方に支払ってほしい金額を書きます
- 同居と別居を繰り返しているときは、一番最後の別居の日を書きます
- 夫婦がはじめて同居した日を書きます
- 増額の請求をしたいときは、その額を書きます
- これまでの支払い状況も書きます
備考
婚姻費用の支払い義務は、請求した時点から発生するものとされています。過去の分まで遡ることは難しいので、早めに調停を起こすべきです。
離婚とお金の問題
離婚をするときに起こる大きな問題のひとつがお金についての問題です。離婚後の生活を考えるうえで、お金の問題は避けて通れません。
たとえば、これまで収入がなかった専業主婦は新たな生活のために仕事が必要になるかもしれません。仕事と収入がある会社員の夫でも子どもを引き取るのであれば、一人で仕事と子育ての両立をしなければなりません。
お金の問題について、十分に話し合わないまま、離婚してしまうと後悔するケースが少なくありません。離婚後に「やっぱり納得できない」「もらえるお金はもらうべきだった」などと思っても、離婚後だと相手が応じないことがほとんどです。
そのため離婚前に「どのお金の問題について、どのように分ける(受け渡しする)のか」をしっかり決めておく必要があります。
どんなお金の問題があるか
離婚にともなうお金の問題は、大きく分けて次の4つがあります。
- 「婚姻費用」は、結婚生活をおくるうえでかかる生活費のことです。離婚するまでの期間に生活費の面倒をみる義務がある方が生活費を渡さない場合、その生活費を請求できます。婚姻費用は、同居別居に関係なく請求できるお金です。
- 「慰謝料」は、相手の行為によって受けた精神的・肉体的苦痛に対する損害賠償金です。浮気はDVなど離婚の原因をつくった相手に請求できます。逆にいえば、明らかに相手に離婚の原因があるという場合でない限り、「相手との結婚生活で心身ともに疲れた」などの理由で請求することはできません。
- 「財産分与」は、夫婦が婚姻中に協力してつくった財産を分けることです。慰謝料とは違い、離婚の原因に関係なく、夫婦それぞれに請求する権利があります。専業主婦で収入がなかった場合も請求ができます。財産分与は、離婚成立後2年経過すると請求する権利がなくなるので、注意が必要です。
老後の生活にかかわる「年金分割」もおさえておきたいところです。これは離婚の際に、将来受け取る予定の厚生年金の権利を分割できるという制度です。条件を満たしている場合は、手続きをとっておくとよいでしょう。 - 「養育費」は、未成熟子が成長するために必要な生活費や養育費や医療費などのお金です。子どもを引き取った親が子どもと離れて暮らす親に請求します。
婚姻費用
結婚生活をおくるとき、日常の生活費、医療費、交際費など、必ずかかる生活費のことを法律では「婚姻費用」と呼んでいます。夫婦には、婚姻費用を分かち合う義務があり、結婚している限りその義務が続きます。夫婦関係が悪化したからといって、義務を怠ることは許されません。また、関係の修復や離婚に向けて別居しているあいだも婚姻費用は分担しなければなりません。
別居している側が無収入ならもちろんのこと、相手の収入より少ない場合や収入が多くても子どもを引き取っているなど、相手よりも扶養の必要性が高い場合には、婚姻費用を請求することができます。相手が支払いに応じない場合は、家庭裁判所に「婚姻費用分担請求の調停申立て」を行うことで、婚姻費用を求めていくこともできます。
調停では、お互いの資産、収入、支出、子どもの有無や年齢などが考慮されます。調停が不成立になった場合は、審判によって結論が示されます。
婚姻費用の請求が認められるのは、多くの場合請求した時点からです。それ以前にさかのぼって請求することは難しいので、別居を開始したときに話し合っておくべきでしょう。
浮気した側の生活費
自分が浮気をした結果、別居に至った場合も、婚姻費用を請求できるのでしょうか。法律上はまだ夫婦ですから、原因をつくった側でも婚姻費用の請求はできます。しかしそれは、別居原因の内容次第です。
たとえば、相手が家庭をまったくかえりみなかったことが浮気のきっかけになったのであれば別居の原因の一端は相手にもあるので、婚姻費用の請求はある程度認められます。しかし、自分の身勝手な理由で浮気したのであれば大きく減額されたり、請求自体が認められなかったりすることがあります。
なお、子どもを養育する義務はどんな状況でも続きます。どちらに別居の原因があるのかにかかわらず、離れて暮らす親が子どもの養育費を支払わなければなりません。
離婚請求を認めるか、認めないか
ひと通りの審理が終わると、以下の点を考慮しつつ、担当裁判官の判断で判決が下されます。
- 原告と被告では、いずれの主張に合理性があるか。
- 証拠のうち、事実として認められるのはどれか。
- 認められた事実のうち、重要なものはどれか。
たとえば、「浮気をした事実」と「浮気後、誠実に対応している事実」の両方が事実と認められた場合、前者が重視れます。
判決言い渡し日に原告の離婚請求を認めるか、棄却されるかが言い渡され、裁判が終了します。その日は出廷しなくてもよく、判決書が双方に送られます。
なお、原告が訴えを取り下げた場合や被告が原告の訴えを全面的に受け入れた場合(認諾)、両者が和解した場合も裁判は終了します。
判決に不服なら上級裁判所で再審理
判決で離婚請求が認められても、調停とは異なり、すぐに離婚は確定しません。判決に不服がある場合、上級裁判所に訴えれば(上訴)、判決の確定は先延ばしされ、裁判が続きます。
家庭裁判所の判決後、まず高等裁判所へ上訴(控訴)し、高等裁判所の判決にも不服があるときは、最高裁判所へ上訴(上告)することができます。ただし、最高裁判所は、法律の解釈をする場なので、浮気などの事実などを巡って争うことができるのは、高等裁判所までです。
控訴するのは、裁判で敗訴した側だけとも限りません。離婚請求が認められた側も財産分与や慰謝料、親権、養育費などの請求についての判決に不服の場合は、その部分について控訴することになります。離婚だけ先に成立させたい場合は、裁判を継続しながらも協議離婚の形式をとって離婚届を提出することはできます。
控訴する場合、判決書が送達された日から二週間以内に控訴状を提出し、50日以内に控訴理由をまとめた「控訴理由書」を提出します。
控訴・上告が行われなければ、その期間が終わった時点で判決が確定します。判決が離婚の請求を認めるものであれば、その時点で離婚も確定します。
離婚の判決確定後の手続き
10日以内に離婚届の提出が必要
離婚を認める判決が確定したら、確定日を含む10日以内に離婚届を提出する必要があります。これは、戸籍に離婚の成立を記載するための手続きであり、行わないと戸籍法違反になるので注意が必要です。
離婚届は、通常離婚を請求した側が提出します。協議離婚のときとは異なり、相手の署名押印や承認は必要ありません。
離婚届とともに「判決書謄本」「判決確定証明書」を市区町村役場に提出します。
裁判途中の和解
裁判所からの和解の勧告
本人尋問など、原告と被告の当人が顔をそろえる日には、裁判所から和解を勧められます。ここでいう和解とは、「お互い仲良くしなさい」という意味ではなく、「判決を待たずにこのぐらいで手を打ってはどうか」ということです。
和解の話し合いは、法廷ではなく別室で行われます。裁判官などが間に入りながら、原告と被告が話し合いを進めます。日本では、離婚裁判を起こした夫婦の4割以上が和解を受け入れています。和解にもそれなりにメリットがあるからです。
ひとつには、条件を自由に設定できる点、和解ではどんな条件で手を打つかを自由に決められます。当初の訴えになかった条件も、ある程度は指定できます。一方、判決は訴状に書かれた件に関してしか、決定を下せません。
もうひとつは、現実的な条件で決着がつく点です。裁判を通じて相手も自分も「折り合いのつけどころ」がわかってきているからです。
和解か判決かを考える
和解では、判決を待つよりも早くに離婚が成立します。和解が成立した時点で、和解調書が作成され離婚が確定します。
また、和解の場合、判決よりも一般的に慰謝料や養育費などの支払いが取り決めた通りに守られる可能性が高くなるといわれています。納得していないことを命令されるのではなく、自分で納得して合意するからです。
裁判官の和解勧告は、強制ではありませんから、納得がいかなければ応じる必要はありません。しかし、これ以上裁判を続けてもメリットがない、勝訴しても相手の控訴で裁判が泥沼化するおそれがある場合などは、和解に応じた方がよいとも考えられます。
和解の申し入れは、裁判の継続中ならばいつでも可能です。相手の出方をみながら判決と和解と、どちらか得かをじっくり考えてもよいでしょう。
認諾離婚
和解以外の手段として、被告側が認諾する認諾離婚という選択もあります。これは訴状に書かれた内容を被告が全面的に受け入れるもので、いわば被告の全面降伏です。その時点で離婚が確定します。
ただし、認諾ができるのは、訴えに親権問題が含まれていない場合だけです。そのため、年に十数例しかない極めて稀なケースとなっています。
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離婚にかかる費用は弁護士へ依頼するのと比較しますと大きな差があります。当事務所では定額制のため、成功報酬はいただいておりません。 離婚した後の生活こそ、お金がかかるものです。離婚にかかる費用を極力抑えて、新生活を迎えてください。